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千葉地方裁判所 昭和60年(ワ)574号 判決

原告(反訴被告)

早川洋一

ほか一名

被告(反訴原告)

藤木八郎

主文

一  別紙記載の交通事故に関し、原告らの被告に対する損害賠償債務が、連帯して五三九万六九九七円及び内金四八九万六九九七円に対する昭和五九年九月一四日以降各支払済迄年五分の割合による金員を超えては存在しないことを確認する。

二  原告らは被告に対し、連帯して五三九万六九九七円及び内金四八九万六九九七円に対する昭和五九年九月一四日以降支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

三  原告ら及び被告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の各負担とする。

五  この判決第二項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

(原告ら)

1  別紙記載の交通事故に関し、原告らの被告に対する損害賠償債務が存在しないことを確認する。

2  被告の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

1  原告らは被告に対し、一一〇〇万一六一六円及び内金九四〇万一六一六円に対する昭和五九年九月一四日以降支払済迄年五分の割合による金員を支払え。

2  原告らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

4  仮執行宣言

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五九年九月一四日午前二時四五分ころ

(二) 場所 船橋市本町一丁目九番七号先交差点

(三) 加害車 普通貨物自動車

原告洋一運転

(四) 被害車 普通乗用自動車

被告運転

(五) 態様 原告洋一が、右交差点内で他車の右折完了待ちのため国道一四号線方面から船橋駅方面に向けて停止中の被告車の右側フロント付近に、右方から原告車前部を衝突させた。

2  原告洋一は飲酒のうえ運転を誤り被告車に自車を衝突させたので民法七〇九条による不法行為責任を負い、原告勇次郎は原告車を所有しているので、被告の傷害に対しては自動車損害賠償保障法三条による責任を負う。

3  本件事故と因果関係ある被告の傷害の程度は一か月の入院、一か月の通院を超えるものではなく、その被告の損害は、休業損害として五〇万三八二八円、慰謝料として三〇万円、入通院雑費として一万八〇〇〇円、通院交通費として五〇〇〇円、治療費として三四〇万五〇三〇円以上合計四二三万一八六八円が相当であるところ、原告らは被告に対し、既に合計五〇〇万五〇三〇円を支払つたので、もはや原告らの賠償責任はない。

4  しかるに被告はなおも支払を請求する。

5  よつて、かかる債務の不存在の確認を求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  1、2の各事実は認める。

2  3のうち、原告らが被告に対し合計五〇〇万五〇三〇円を支払つたことは認めるが、その余は争う。

3  4は認める。

三  本訴抗弁兼反訴請求原因(以下「抗弁」という。)

1  事故の発生

(一) 本訴請求原因1の(一)ないし(四)記載のとおり。

(二) 事故態様 被告車が、対面信号が青になるのを確認し、国道一四号線方面から船橋駅方面に向けて発進して右交差点に進入した直後、酒に酔つて居眠り運転をした原告車が、赤信号を無視して津田沼方面から右交差点に高速度で進入し、その前部を被告車の右側フロント付近に右方から激突させた。

2  責任原因

本訴請求原因2記載のとおり。

3  受傷

被告車は、本件事故により左方へ一メートルほど跳ね飛ばされて被告は激しいシヨツクを受け、その結果、頸椎捻挫、腰椎捻挫の各傷害を受けた。

4  治療経過

被告は、右受傷により、左記の病院等に入通院した。

(一) 船橋病院

昭和五九年九月一四日、一五日入院(二日)

(二) 熱田胃腸科外科医院(以下「熱田医院」という。)

(1) 同月一七、一八日通院(二日)

(2) 同月一九日から昭和六〇年一月九日迄入院(一一三日)

(3) 同月一〇日から同年二月二八日迄通院(五〇日中四一日)

(4) 同年三月一日から同年五月三日迄入院(九三日)

(5) 同年六月一日から昭和六一年二月一二日迄通院(二五七日中一七一日)

以上入院合計二〇八日、通院三〇九日中二一四日

5  後遺症

被告の傷害は、昭和六一年二月一二日に固定したが、当時の自覚症状は、「頭、頸部の痛み(動作時)、両手指のしびれ感(常時)、腰痛(動作時のみ)、両足趾のしびれ(常時)、両膝関節部のしびれ(時々)」であり、現在も右各症状がとれず、休業状態である。

6  損害

(一) 治療関係費

(1) 船橋病院治療費 八万八三〇〇円

(2) 熱田医院治療費

〈1〉昭和五九年九月一七日から昭和六〇年二月二八日迄 三三一万六七三〇円

〈2〉昭和六〇年三月一日から同年四月二五日迄 一五四万四四三〇円

〈3〉同年四月二六日から同年六月一日迄 二〇万七八八〇円

〈4〉同年六月七日から昭和六一年二月一二日迄 一七万三二五〇円

(3) 診療報酬明細書料(熱田医院、一二枚) 二万四〇〇〇円

(4) 入院雑費 二〇万八〇〇〇円(一日一〇〇〇円、二〇八日)

(5) 通院交通費 五〇〇〇円(一回五〇〇円、一〇日)

(二) 休業損害 五七七万九五四三円

被告は、タクシー運転手として事故前三か月間(七八日)に八七万一九七〇円の収入を得ていたから、その収入日額は一万一一七九円となり、これに休業日数五一七日を乗じた。

(三) 逸失利益

被告の前記後遺症により、労働能力喪失率は少なくとも一〇パーセント、その期間は二年であるので、新ホフマン係数(一・八六一四)により中間利息を控除した。

(四) 慰謝料 二三〇万円

事故が原告洋一の酒酔い、赤信号無視という重過失によつて惹起されたこと、原告らにおいて、昭和六〇年三月一日被告が再入院した日以降の治療費支払を予告なく打切り、治療継続中に本訴を提起したことなどを考慮すべきである。

(1) 傷害分

入院慰謝料(二〇八日分)一二〇万円

通院慰謝料(二一四日分) 六〇万円

(2) 後遺症分 五〇万円

7  既払分

被告は原告らから治療費として三四〇万五〇三〇円、内払金として一六〇万円を受領した。

8  弁護士費用 一六〇万円

損害額から既払分を控除すると九四〇万一六一六円となるところ、原告らからあえて本訴を提起し、被告はこれに応訴するため、被告訴訟代理人に委任せざるを得なかつた。この着手金及び報酬は各八〇万円が相当である。

9  よつて、被告は原告らに対し、一一〇〇万一六一六円及び内金九四〇万一六一六円に対する本件事故の日である昭和五九年九月一四日以降支払済迄民法所定の法廷利率年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

四  抗弁に対する認否

1  1の(一)は認める。(二)のうち、衝突の事実は認めるが、激突したことは否認する。

2  2は認める。

3  3は否認する。

4  4の入通院の事実は認めるが、入通院各一か月を超える因果関係を否認する。

5  5は否認する。

6  6のうち、原告らの自認する限度を超える損害を否認する。

7  7は認める。

8  8、9は争う。

五  原告らの主張

1  本件事故は、時速五キロメートルで走行していた被告車に、急制動をしたがスリツプした原告車が衝突し、両車がかみ合つたままその場に停止したもので、車両の破壊度も軽く、被告が頸腰椎捻挫を受ける程の衝撃はなかつた。

2  被告は、事故日に船橋病院に入院し、知覚鈍麻を訴えたが、翌日、看護婦から安静を説明されるや、「何ともないから家に帰る」と起き上り、医師の説明も聞入れず、独歩で退院した。

これは、被告が、実際には知覚鈍麻がないのに、自己の症状を重く見せるために訴えたため、病院側が脊髄損傷を疑つて厳重な管理体制をとつたので、被告が恐怖を抱いて強引に転医したものである。

3  船橋病院のカルテには、「知覚以外の運動、反射、機能はいずれも良好、正常」とあり、他覚的機能所見上には全く異常がないことが明らかである。レントゲン所見も外傷性を疑う異常は認められておらず、単に、「頭重感、上下肢のしびれ感、不快感」を被告が訴えているのみで、また、食欲は普通であつた。

4  被告は、熱田医院においては、知覚傷害を訴えておらず、同医院に第一回入院中、付添看護を要さず、介達牽引は九月下旬ころから開始されたに過ぎず、またその治療内容は定形的なもので、重症な期間は認められないにも拘らず、自らの希望により相当期間一人部屋に入室した。

5  熱田医院のカルテには、「両手のしびれ感、下肢しびれ」等が記載されているが、自覚愁訴を他覚的に捕捉するための検査は実施されておらず、一一月二〇日には「神経学的所見特に無し」との記載がある。

6  熱田医院での第一回入院中の治療内容は画一的であり、外出も多く、入院を前提とする治療内容は皆無である。

7  熱田医院への第二回入院は、「疼痛のため被告の希望入院」とされているが、カルテの記載は入院日と五月一八日の二回のみで、外出日の方が在室日より多いという異常なものである。

8  これらの入通院の結果、被告の症状が改善されたとの状況はない。

被告の訴えは、賠償性による心因性要素に基づく愁訴であるから、本件事故との因果関係はない。

また、被告の「しびれ、頭重感」は、加齢性退行変性によつて生じた変形性脊椎症、頸部骨軟骨症と呼ばれる症候群の可能性が高い。

六  被告の反論

1  1のうち、衝突したことは認めるが、その余は否認し争う。被告車が対面信号が青になるのを認めて発進しようとしたところ、対向車が右折のため先に交差点に進入したので、その動静をうかがい、右対向車が停止したので、被告車が発進した直後に、原告車がものすごい勢いで右方から衝突してきたものである。原告洋一は、居眠り運転か、脇見運転をして赤信号を無視して交差点に進入したのである。

2  2は、船橋病院への入院、知覚鈍麻を訴えたこと、被告が翌日退院したことは認めるが、その余は否認し、争う

被告は、院長の許可を得て退院し、タクシーで帰つた。

被告は、船橋病院での導尿が辛かつたので退院した。

3  3のカルテの記載は認める。食欲については、事故日のことであつて、船橋病院では食事を取つていない。

4  4のうち、「重症な期間は認められないこと、被告の希望により一人部屋に入室したこと」は否認し、その余は認める。一人部屋への入室は熱田医院の判断である。

5  5のカルテの記載は認める。

6  6のうち、一二月以降の外出が多いことは認めるが、これは治療上必要であつた。

7  7のカルテの記載は認める。その余は争う。

8  8のうち、被告の症状があまり変わらない事実は認める。その余は否認し、争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおり。

理由

一  本訴請求原因1、2及び4の各事実は当事者間に争いがない。同3のうち、原告らが被告に対し、本件損害賠償に関し、治療費として三四〇万五〇三〇円、内払金として一六〇万円合計五〇〇万五〇三〇円を支払つたことも当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について検討する。

抗弁1の(一)、(二)のうち衝突したこと、同2、4の入通院の事実、7の各事実は当事者間に争いがない。

三  被告の負傷程度

1  事故による衝撃

前記一の事実、原本の存在及び成立に争いのない甲第四号証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故は、交差点において、被告車が、青信号により時速五キロメートル程度で発進した直後に、原告洋一において飲酒の上で運転していた原告車が、赤信号で交差点に進入し、急制動措置を講ずるも間に合わず、被告車の右側フロント付近に右方から衝突したというものであり、衝突時、運転席の被告は、強い衝撃を受けたことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、本件事故により被告の身体が受けた衝撃は、軽からざるものであつたといわなければならない。

原告らは、衝撃は軽かつたと主張し、前記甲第四号証、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三号証によれば、本件事故による原告車の損害は約二〇万円、被告車のそれは約一一万円であつたことが認められるが、前記の結論を左右するに足りない。

2  治療経過

前記二の事実に、成立に争いない甲第二号証の一ないし八、乙第一号証、第三、第四号証、第一〇号証、原本の存在及び成立に争いない甲第一号証の一ないし一六、同号証の二〇、二一、第二号証の二二ないし二九、第五号証、第六号証の一、二、乙第二号証、第五号証、原告本人尋問の結果を総合すれば、以下の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。

(一)  被告は、昭和一〇年一一月八日生まれで、本件事故当時四八歳であつた。

(二)  被告は、事故後間もなくの午前四時四〇分、船橋病院に入院し、「後頭部重感、頸部疼痛、両上下肢のしびれ、前側上半身の知覚鈍麻」を訴え、「頸椎捻挫」との診断を受けたが、医師は、「頸髄損傷の可能性あり」とし、絶対安静を命じ、頭部を砂のうで固定し、尿道バルンを使用した。また食事は、一六日の朝から開始とされ、それ迄禁食と指示した。

その後、被告の容態には著変なく、知覚鈍麻、しびれ感も次第に消失した。レントゲン撮影の結果も異常なく、運動、反射等の機能はいずれも良好ないし正常とされた。

(三)  九月一五日午前零時ころ、巡視の看護婦に、頭部安静を指示された被告は、尿道バルンの異和感と頭部固定とに嫌気がさし、「もう何ともないから帰る。」と言つて起上り、院長から説得されたものの、これを強引に押切つて退院の許可を受け、独りでタクシーを呼んで帰宅した。

(四)  被告は、九月一六日は自宅で過し、翌一七日熱田医院を受診して、「頭痛、頸部痛、嘔気、食欲不振」を訴えたが、「手のしびれはない」と述べ、「頸、腰椎捻挫」との診断のもと治療を受け、同月一八日、再度同医院を受診し、「手指のしびれ、頭痛、頸部痛、腰痛」とともに「排尿困難、出血」を訴え、同日夜から発熱して、翌一九日、自ら入院治療を希望して入院した。

(五)  入院後間もなく、尿路感染症状は軽快し、九日間安静をとつた後、九月下旬ころから牽引等の理学的療法がとられた。

被告は、一〇月二〇日、腰痛、頭痛を強く訴え、手指、下肢のしびれを伴うようになつた。しかし、握力異常はなく、腱反射も正常であつた。

その後も同様の経過で、一一月二〇日、医師熱田二士行は、「神経学的所見特に無し」とするとともに、被告の内向的な傾向から、心因的な影響を考慮して散歩、運動が必要かと考え、被告に指示した。

しかし、散歩後「項部疼痛」が上昇したり、症状改善が認められないため、通院治療に切換えることとし、昭和六〇年一月七日退院となつた。

(六)  その後、被告は、数日毎に通院したが、「動いているうちに頸が痛んで来る」とか、「車に乗つてみたが、頸、手足がしびれ、痛んだ。」との訴えを継続し、折柄、原告らの賠償交渉担当者との休業補償をめぐるやりとりのなかで、同担当者から、「働けないのなら、入院してくれ。」との趣旨を言われたこともあつて、被告は、同年三月一日、強い疼痛を訴えて入院を希望し、再入院となつた。そして、以後、原告らからの賠償給付はなされなくなつた。

(七)  同年五月三一日迄の入院中、被告の本件事故による頸椎捻挫等に関するカルテの記載はなく、被告は医師の勧めにより外出し、外泊も頻回した。そして、医師の指示により退院した。

(八)  その後、被告は、昭和六一年二月一二日迄に一七一回熱田医院に通院し、同日、医師熱田は、症状固定と診断し、後遺症等級認定のための診断書には、自覚症状として、「項・頸部の痛み(動作時)、両手指のしびれ感、常時、握力変化なし、腰痛(動作時のみ)、両足趾のしびれ(常時)、両膝関節部のしびれ(時々)」と記載された。

(九)  被告の、昭和六一年九月一八日当時の症状は、自動車の運転を一五ないし二〇キロメートル程度継続すると、首や肩、手足が痛くなり、そのためタクシー運転手の職に復帰する自信がなく、休職している。

(一〇)  医師熱田は、当裁判所への意見書において、およそ、「(後遺症等級は)、一二級ないし一四級が妥当と思われるが、専門家の判断による。治療の長期化については、加害者、保険会社との問題、被害者自体が、逆に被告として扱われている点等が影響しているものと思われる。現在の時点(昭和六一年一一月一九日)では、(タクシー)運転手としての復帰は、極めて困難だが、送迎バスの運転手等長時間の緊張を強いられない仕事なら就労可能と思われる。」と述べた。

(一一)  前記(八)記載の診断書に基づいて、自動車保険料率算定会千葉調査事務所は、後遺障害認定調査をなし、昭和六一年七月二五日「非該当」とした。

3  右各事実によれば、被告の本件事故による傷害は、頸・腰椎挫傷でいわゆるむちうち損傷であるが、器質的損傷はなく、いわゆる不定愁訴が主要な内容であつたということができる。そして、前記入通院の結果昭和六一年二月一二日症状固定し、自賠責法施行令別表の後遺傷害等級表記載の後遺症は残さなかつたと認められるところ、昭和六〇年三月一日から同年五月三一日迄の熱田医院への入院は、特段被告の症状に変化があつて入院を必要としたというのではなく、前記のように、被告が原告らの賠償交渉担当者と休業補償をめぐつてやりとりした挙句、自らの希望により入院したというもので、以後の治療内容も、入院を不可決としたとは解せられないので、この間は、前後の期間と比例した程度の通院回数である九三日中六五日の通院の限度でのみ、因果関係を肯定すべきである。しかも、被告の、昭和六〇年三月一日以後昭和六一年二月一二日迄の症状は、心因的要素によるものが濃厚と認められるので、これによる損害を全て原告らに帰するのは衡平でなく、その七割を因果関係があると解するのが相当である。

四  損害

以上の事実関係により、被告の損害額を以下のとおり算定する。

1  治療関係費

(一)  船橋病院治療費 八万八三〇〇円

前掲甲第一号証の二一によりこれを認める。

(二)  熱田医院治療費

(1) 昭和五九年九月一七日から同年一〇月三一日迄 一二三万〇二〇〇円

前掲甲第二号証の二六によれば、合計一二九万五二〇〇円の請求がなされていることが認められる。しかし、その中には、室料差額(個室一人部屋)五〇〇〇円の四三日分が含まれているところ、その必要性についての立証がない。そこで、前記三、2(四)、(五)認定に鑑み、入院後三〇日に限り必要があつたと認めて、五〇〇〇円の三〇日分の限度で室料差額を算定すべきである。そうすると右金額となる。

(2) 同年一一月一日から同月三〇日迄 五八万八九〇〇円

前掲甲第二号証の二七によれば、合計七三万八九〇〇円の請求がなされていることが認められる。しかし、その中には、室料差額(一人部屋)五〇〇〇円の三〇日分が含まれており、その必要性について何らの立証がないので、これを損害と認めることはできず、控除して算出した。

(3) 同年一二月一日から昭和六〇年一月九日迄 七七万〇三五〇円

前掲甲第二号証の二八によれば、合計九三万〇三五〇円の請求がなされていることが認められる。しかし、その中には、室料差額四〇〇〇円の四〇日分が含まれており、その必要性について何らの立証がないので、これを損害と認めることができず、控除して算出した。

(4) 同年一月一〇日から同年二月二八日迄 三五万二二八〇円

前掲甲第二号証の二九によりこれを認める。

(5) 同年三月一日から五月三一日迄 二六万六〇〇〇円

前記三、3で判断したように、右期間は九三日中六五日の通院の程度と認めるべきであるので、前項が五〇日中四一日の通院であるのに照らし、その通院日数の割合でもつて五五万八四九三円を算出し、前掲乙第五号証によれば、被告は、同年四月二六日から国民健康保険を使用したことが認められるので、右期間中のほぼ三分の一に当る額は、これを減じて、約三八万円を下らないものと認め、更にその七割として算出した。

(6) 同年六月七日から昭和六一年二月一二日迄 一二万一二七五円

成立に争いない乙第六号証により一七万三二五〇円を請求されたことが認められ、その七割として算出した。

(7) 診療報酬明細書料(二〇〇〇円、一二枚) 一万六八〇〇円

成立に争いない乙第七号証及び原告本人尋問の結果によれば、昭和六〇年四月以降の分として二万四〇〇〇円請求されたことを認められ、これの七割として算出した。

(三)  入院雑費 一一万五〇〇〇円

一日一〇〇〇円を相当とし、前記入院総日数一一五日間を乗じて算出した。

(四)  通院交通費 五〇〇〇円

右事実は当事者間に争いがない。

2  休業損害 四五九万七九二二円

成立に争いない乙第九号証、原本の存在及び成立に争いない乙第八号証に原告本人尋問の結果を総合すれば、被告は、タクシー運転手として事故前三か月間(七八日)に八七万一九七〇円の収入を得ており、被告は昭和五九年九月一五日から少なくとも昭和六一年二月一二日迄休職したことが認められる。よつてその平均収入日額一万一一七九円に休業日数のうち、昭和五九年九月一五日から昭和六〇年二月二八日迄の一六七日を乗じた一八六万六八九三円と、同年三月一日から昭和六一年二月一二日迄の三四九日分三九〇万一四七一円の七割分二七三万一〇二九円とを合計した。

3  慰謝料 一七五万円

前記三の各事実により認める、本件事故の態様、傷害の経過等一切の事情を考慮すれば、被告の入通院慰謝料は右を相当とする。

被告は、後遺症による損害をも請求するが、前記三、2(八)ないし(一一)の各事実によれば、被告には不定愁訴が依然として残つており休職状態ではあるものの、これは心因的要素が強く、賠償問題の解決等により軽快・消失する見込みが大であると解せられるので、これを後遺症と認めるのは相当でないので、当該主張は理由がない。

五  原告らの弁済

前記一の事実によれば、原告らは被告に対し、治療費として三四〇万五〇三〇円、内払金として一六〇万円を支払つたものである。

六  損害残額

損害額から各既払分を控除すると、残損害額合計は、四八九万六九九七円となる。

七  弁護士費用

原告らが本訴を提起し、被告が被告訴代理人を委任してこれに応訴し、反訴請求をなしたことは、当裁判所に顕著である。

被告の弁護士費用のうち、本件事故と相当因果関係のある範囲は、認容額等諸般の事情に鑑み、五〇万円を相当とする。

八  結論

以上検討したところによれば、被告の本訴抗弁兼反訴請求は、原告らに対し、本件事故の損害賠償として、連帯して五三九万六九九七円及び内金四八九万六九九七円に対する本件事故の日である昭和五九年九月一四日以降各支払済迄民法所定の法定利率年五分の割合による遅延損害金を求める限度において理由があるが、その余は失当である。

それゆえ、原告らの本訴請求は、反訴請求で認容される右の額を超える部分については、原告らの損害賠償債務は不存在であるので、その限度において理由があるが、その余は失当である。

よつて、双方の請求の理由のある部分を各認容し、その余はいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文、仮執行宣言につき、同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 池本壽美子)

別紙

昭和五九年九月一四日午前二時四五分ころ、船橋市本町一丁目九番七号先で原告早川洋一運転の車両習志野四五せ四七二二号と被告運転の車両習志野五五い六六五〇号との間で発生した交通事故

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